院長のブログ

起立性調節障害とは2023.03.06

このブログは令和4年度の上御糸小学校の学校保健委員会でお話しした文章をそのまま掲載しております。おひとり生徒さんのことが記載されておりますが詮索はしないようにお願い申し上げます。

 起立性調節障害とは
 
小学校3-4年生頃から症状が出る、神経の調節が上手にできないことに起因する、めまいや立ち眩み、朝が起きられないなどの症状を呈する病気です。発生頻度的にはやや女の子に多いようです。たたし、めまいや立ち眩みは気づきにくい症状で、朝起きられない(学校に朝からいけない)という症状が出てから、気づかれることが多いため大騒ぎになったり、『たるんでいる』『さぼっている』と言われ、家族の前で精神的に落ち込んでしまうしかない状況に置かれているお子さんが多いと思われます。実は私も起立性調節障害で、わたくしが異常に気付いたのは小学生の時に靴箱に靴を出し入れするときに立ち眩みがしょっちゅう起こることでした。当然朝礼のお話が長くなった時には卒倒して倒れたことも何度もあり、一応成績が良かったこともあって(クラスの委員長をしていました)先生方はどう考えられていたのかなと思います(これもストレスになります)。幸い私の親はそのことについてはあまりうるさく言わなかった(勉強しろとはしょっちゅう言っていましたが)ので、何とか大学を卒業して今の仕事をしておりますが、この症状は30歳過ぎまで続いていたと記憶しております。今では立派な高血圧患者で降圧剤を服用しておりますが。
 起立性調節障害の病気の原因は、特に起立時に交感神経と副交感神経の調節の働きが弱いために、体の下のほうに血液が集まって心臓から全身に送る血液の量がガクッと減ってしまい、目の前が真っ黒になったり、真っ白になったりする眼前暗黒感をおこしたり、長時間起立しているとやはり体の足のほうに血液が集まって貧血みたいな状態となるために卒倒してしまうことが主因と考えられております。また、遺伝的な要素やストレス、生理などがかかわっているとされています。決してご本人が根性がないとか、たるんでいるわけではありません。特に問題となる朝が起きられないことは、朝起きるときに頭部を挙上するわけですが、そのときに前述した症状が強く出ることが原因と思われます。
 お手元の資料に神経についてのものがあるのは、少しでもこの病気で困っている子供たちの味方になっていただける人が多くなればと考えているためにお配りしたもので、医者だから難しいものを用意して権威を保とうとしているといった意図は全くございません。
起立性調節障害の症状はたちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。過去には思春期の一時的な生理的変化であり身体的、社会的に予後は良いとされていましたが、近年の研究によって重症の起立性調節障害では自律神経による循環調節(とくに上半身、脳への血流低下)が障害され日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校状態やひきこもりを起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることが明らかになりました。発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが不可欠です。
疫学的には、小学生の5%、中学生の10%に認められ、重症者は1%、不登校の約4割に起立性調節障害を認めます。男女比では男1に対して、女1.5-2とされています。好発年齢は10-16歳で、約半数に遺伝的傾向が認められるとされています。
成因としましては、
①起立に伴う循環動態の変動に対する自律神経による代償機構の破綻。
②過少あるいは過剰な交感神経活動。水分の摂取不足。
③心理社会的ストレス(学校ストレスや家庭ストレス)が関与する。身体が辛いのに登校しなければならないという圧迫感が、さらに病状を悪化させる。
④日常の活動量低下、つまり筋力低下と自律神経機能悪化から下半身への過剰な血液移動により脳血流低下そしてさらに活動量低下というdeconditioningが形成されるとさらに増悪するといったことが考えられています。
一般的にみられる症状は立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛など。症状は午前中に強く午後には軽減する傾向があります。また、症状は立位や座位で増強し、臥位にて軽減します。
夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになります。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。
診断方法は
①立ちくらみ、失神、気分不良、朝起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中に調子が悪く午後に回復する、食欲不振、車酔い、顔色が悪いなどのうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。
②鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外します。
③新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定します。
(1)起立直後性低血圧(軽症型、重症型)
(2)体位性頻脈症候群
(3)血管迷走神経性失神
(4)遷延性起立性低血圧
このような手順で診断を進めるようにガイドラインには記載されております。以下、治療や予後などの記載が続いていくのですが、ここからは医師のための記載であると考えられますので省略させていただきます。
 以上のような手順で起立性調節障害を診断するわけですが、私は小児神経学の専門家ではなく、児童精神医学の専門家でもありませんので、基本的には前述した症状によりある程度診断のめどを立て、必要に応じて血液検査や起立試験を実施して診断していることがほとんどです。精神疾患であるうつ傾向が疑われたり、神経疾患が疑われる場合や紹介を希望される場合は二次病院へ紹介することもありますが、三重県内に起立性調節障害を専門に診断や治療を行っている施設はほとんどないと思われます。
 最後に、現在当院へ通院しているお子さんのお話をさせていただきます。お子さんは幼児期からの当院のかかりつけで、現在中学3年生の女の子です。松阪市内の東部中学校に通学しています。当院受診以前に頭痛があり、市内の他院(内科の先生)へ通院し、片頭痛の診断を受け、鎮痛剤の投薬を受けていました。当院受診は昨年年末で頭痛は今処方されている薬で治るが、立ち眩みがあり、朝が起きられず、学校に行けなくなったとのお話で受診されました。典型的な起立性調節障害と思われ、まずはメトリジンの内服を勧めました。当然、症状の緩和はほとんどなく、学校へ行けない、特に中学3年生ですから受験が待っています。しばらく通院がなかったのですが、お母さんから電話が本年1月下旬にかかってきて、このままでは私立の受験に行きくことができない、どうしたらよいかとの内容でした。まずお母さんにそのことは本人が一番わかっていることで、受験の日には何としてでも本人は朝起きていくはずだと説明しました。できれば処方薬を継続して服薬したほうが少しは助けになるはずだから。ご本人は私学と思われる受験にはいくことができて合格したとのことでした。つい最近は、今度は公立高校の受験があるがどうしたらよいかと、お母さんがおひとりでご相談に見えました。本来の志望校はどうも伊勢高校らしく、普通には合格できそうとのことでしたが、登校するには通学時間が朝早くなるため今の状態では無理で、自宅の近所にある松阪商業に変更しようかとの相談でした。ここで一番問題になるのが、入学したが通学できなければ進級できず、退学になることが心配とのことでした。このあたりのことになると私にもわからないことになるので、学校に相談していただくことが良い説明しましたが、最後はお子さんに決めていただいたほうが良いと付け加えました。最近今度はお母さんとお子さんが一緒に受診されました。お子さんは朝起きられず、学校にも行けない、夜が早く寝られない。ただし立ち眩みは軽減してきている。午後からの受診だったので見た目にも元気そうに見えました。生活を聞くと夜はなかなか寝られず、午前2時頃になるのが多いとのことでした。じゃあ今なら登校できるかと聞いたところ、行きたくはないが行けないことはないとの返事で、この子にはいろいろな精神的なストレスが溜まっている様子であることが窺えました。夜起きて何をしているのかと聞いたところ何をしているでもなく、早く寝たいという気持ちと戦っているのかなと思われましたので、午後から少し運動でもしてみたらと伝えました。受験に関しては高校を卒業しなくてもやる気があれば、大学受験はできることは知っていると聞いてみたところ知っている様子でした。高校進学はどう決めてもいいんじゃないか、だけど私(彼女)が進路を決めたほうがいいと思うよとも付け加えておきました。もしうまくいかなくても、上手に指導できなかった先生(私のこと)の責任にしていいよとも伝えておきました。彼女が今から自分の進路を自分の体調も考えながら決めなくてはいけないのはかなり酷なことと思いますが、今後の彼女の人生は長くその責めを誰かの所為と考えて生きていくのはかなり厳しいことになる気がして、できるだけ気楽に高校生生活を始めてくれればよいと思っています。彼女の今後の学生生活がうまくいけばよいが、と願っております。今は、できれば高校をどう選んだのか聞きたいものですが、と考えております。
 この事例はかかりつけのお子さんだからできたことで、かかりつけではない場合はここまでの介入はできないと考えております。